犬との約束
もう老犬になろうかという小型犬が我が家にいる。
連れ帰った日はあまりに静かでこの子は声が出ないのではないかと心配した。
翌日には、すっかり鳴いて足に噛みついてくるようになっていたが。
どこに行くのもいっしょだったはずなのに。
あれから、10年になろうとしている。
今は落ち着いていてすっかりよろよろになってしまい、歯も抜けてきている。
時計の針は戻らないことを見て見ぬふりをしてきた。
忙しいからと、勝手な理由でいつしか、いるだけの存在になってしまっていた。
もっともっと連れだすべきだった、もっともっと一緒にいるべきだった。
うちの犬が来た頃に読んだ本。
内容もしっかり頭に刻んでいたはずなのに、ついつい他のことにかまけてきた。
約束はすっかり反故にしてしまった。
今頃、時間を取り戻そうと、あがいている。
タイムマシーンなどないのだ、空白を埋めることなどできない。
ただ、これからの新しい時を一緒に刻んでいきたい。